01生計条件とは何か
「生計要件」は、国籍法第5条第1項第4号に定められた帰化許可の要件のひとつです。申請人本人、または生計を同じくする配偶者その他の親族の資産・技能によって、経済的に自立し、安定した生活を営むことができるかどうかを審査するものです。
日本は世界でも例を見ない少子高齢化が進んでおり、2025年には75歳以上人口が全体の約18%、2040年には65歳以上人口が約35%に達すると推計されています。こうした背景から、帰化申請では「経済的に自立し、継続して社会保険料や税金を負担しながら日本社会を支えられる人物か」という点が重視される傾向にあります。
申請人や同居家族が生活に困窮し、犯罪や生活保護受給に至ってしまうと、帰化許可の趣旨と相反する結果になります。そのため、経済的な自立と安定性は、素行条件と並んで重視される重要な審査項目です。
02仕事と年収の目安
帰化申請人には、定職に就き、安定継続的に生活していけるだけの稼得能力があることが求められます。現在失業中の方は、フルタイムの仕事に就いて毎月給料を得られるようになってから、一定期間の実績を作ったうえで申請を検討してください。
年収の目安
審査は永住許可申請と同様の基準で行われる実務上の傾向があります。これまでは年収300万円以上が目安とされてきましたが、近年の物価高騰を踏まえると、実務家の肌感覚として単身で扶養家族がいない場合でも350万円以上が安全圏とされつつあります。
| 世帯構成 | 年収の目安(世帯合算) |
|---|---|
| 単身・扶養家族なし | 350万円以上 |
| 配偶者1人を扶養 | 上記に50万円以上を加算 |
| 小学生以上の子1人を扶養 | 子1人につき50万円以上を加算 |
この年収は世帯年収として判断されるため、配偶者が就労可能な在留資格で働いている場合はその収入も合算されます。資格外活動許可によるアルバイト収入は、本来の在留活動ではないため、一時的な収入として評価される点にも注意が必要です。
申請時点で年収300万円以上あっても、転職を繰り返している方は、転職先の給与水準が当初の条件と異なり、結果として前職より年収が下がるケースがあります。こうした場合に生計要件でつまずき、不許可となる例も見られます。
法人経営者・個人事業主の場合
求められる年間報酬額の目安は給与所得者と同様です。加えて、法人の事業内容の適法性、決算内容の良し悪し、申告の適正性や継続性も審査対象になります。債務超過の状態がある場合は、申請前に脱していることが必要です。赤字決算の場合は、一時的な投資増加によるものである旨の説明や、今後の具体的な対策・計画の説明が欠かせません。
親族からの経済的支援を受けている場合
学生や定職に就いていない方が、親族からの継続的な経済的支援を受けて申請する場合は、支援者との身分関係、支援者の収入源・金額・資産状況、所得の申告・課税・納税状況、加入義務がある場合の厚生年金・健康保険・国民年金の状況が審査対象となります。
03世帯単位で判断される仕組み
旧国籍法では、子に扶養される老親、妻に扶養される夫、親に扶養される成年の子は生計要件を満たさないとされていました。現行の国籍法では、生計要件を個人単位ではなく、生計を同じくする配偶者その他の親族を単位として資産・技能を総合的に判断する形に緩和されています。
生計を同じくしていれば、世帯(住民票上の世帯)を異にしていても、申請人を現在および将来にわたり継続的に扶養する限り、この条件を満たすとされます。例えば、親と別居し、親の仕送りで大学に通う成年の子もこの条件を満たします。本人のアルバイト収入と親・兄弟からの仕送りの両方によって生計を立てている場合も同様です。
申請人や同世帯の家族全員の世帯収入は、総額だけでなく収入と支出のバランスが取れており、毎月一定額を貯蓄に回せる経済的な余裕があるかどうかも判断の対象になります。なお、法務局から具体的な世帯年収の基準額が公表されたことはなく、個別の事情に応じた総合判断とされています。
04自己破産の経験がある場合
自己破産の経験は、帰化許可申請の対象者としての適格性という観点から、審査上ネガティブな評価を受けざるを得ません。これまでは、破産手続き開始決定日から7年以上経過していれば問題なしと扱われるケースもありましたが、近年の生計要件・素行要件の厳格な審査では、期間の経過だけですべてのケースが問題なしとはならず、あくまで総合評価によります。
審査で重視されるのは、自己破産に至った理由や経緯、それを回避しようとした努力の過程、その後現在までの生活状況・生活環境・資産状況、当時の債権者との関係性などです。債権者が日本人であった場合は、その心情も考慮され得る要素になると考えられます。
破産手続き開始決定日から7年を経過していない場合は、原則として生計要件を満たさないと考えておいた方がよいでしょう。7年以上経過している場合でも、必ず許可されるわけではない点に留意してください。
05借入れがある場合
100万円程度の物品購入や臨時の出費による借入れで、返済計画どおりに返済できている状態であれば、許可された事例は珍しくありません。一方で、計画どおりの返済ができず滞納がある場合や、返済が遅れ滞っている場合は、生計要件を満たしているとは言えません。
継続的・安定的な収入額と返済額とのバランスも重要な判断要素です。過度に大きな金額の返済を続けている場合は、経済的に生活が安定しているとは言えず、慎重かつ厳しい審査を受けることになります。生活費の不足による借入れを繰り返している場合も、生計を立てられているとは言い難く、不許可となる可能性が高くなります。借入れの金額・年齢・現在の年収に加え、学歴・職歴・実績などから見いだせる稼得能力の高低も含めた総合的な判断がなされます。
宿泊業・飲食業などに勤務する方に多く見られる、コロナ緊急小口資金等の特例貸付金について、償還免除の決定を受けている場合は、返済不能であったことを理由に免除を受けたとみなされ、生計要件を満たしていないと判断されます。この場合は、償還免除申請を行わずに残額を遅れずに返済し続けるか、完済したうえで改めて申請する必要があります。
06国民年金の免除・納付猶予の注意点
日本に住む20歳以上60歳未満の方は、国籍を問わず国民年金への加入が義務付けられています。保険料の納付が経済的に厳しい場合は、市区町村窓口への申請により、全額・一部免除や納付猶予を受けられる制度があります。
| 制度 | 概要 |
|---|---|
| 全額免除・一部免除制度 | 本人・世帯主・配偶者の前年所得が一定額以下の場合に申請可能 |
| 納付猶予制度 | 50歳未満で本人・配偶者の前年所得が一定額以下の場合に申請可能 |
| 学生納付特例制度 | 学生で本人の前年所得が一定額以下の場合に申請可能 |
| 法定免除 | 障害基礎年金受給中、生活保護の生活扶助受給中などの場合に全額免除 |
通常の未納分は過去2年以内であれば納付できますが、免除・納付猶予・学生納付特例は10年以内であれば追納が可能です。免除申請は経済的な事情を国に申告したうえでの法律に則った対応であるため、単なる未納と比べて「遵法精神」の観点では問題になりません。
免除・納付猶予の申請自体は適法な対応ですが、国籍法第5条第1項第4号が求める「自己または生計を一にする親族の資産・技能によって生計を営めること」という基準を満たしていることにはなりません。帰化申請の受付時点で免除・納付猶予の申請をしておらず、受付後に同申請を行った場合は不許可事由となり得るため、十分な注意が必要です。
過去の免除期間分の保険料は、可能な限り申請前に納付を進めておく必要があります。受付後の面接で、この免除期間分の納付を指示されることも多く、それができないと不許可となる場合もあります。免除はあくまで支払いを猶予されているに過ぎず、最終的に支払ったかどうかが重視されます。対象期間が1〜2年程度であれば、すべて追納したうえで申請することをおすすめします。同世帯の家族についても同様の対応が必要です。
07自己チェックリスト
申請前に、ご自身と世帯の状況を一つずつ確認してみましょう(このチェックはブラウザ内でのみ保持され、送信されません)。
年金の追納や借入れの完済など、時間をかけて対応できる項目も多くあります。申請前に整理しておくことが、許可への近道です。
08よくある質問
帰化申請の「生計要件」とは何ですか?▾
国籍法第5条第1項第4号に定められた要件で、申請人本人または生計を同じくする配偶者その他の親族の資産・技能によって、経済的に自立し安定した生活を営むことができるかを審査するものです。個人単位ではなく世帯単位で総合的に判断されます。
帰化申請に必要な年収の目安はいくらですか?▾
永住許可申請と同様の基準で審査される実務上の目安として、単身で扶養家族がいない場合は年収300万円以上が最低ライン、近年の物価上昇を踏まえると350万円以上が安全圏とされています。配偶者や子がいる場合はこれに加算した世帯年収が必要です。
自己破産の経験があると帰化申請はできませんか?▾
破産手続き開始決定日から7年以上が経過していないと生計要件を満たさないと考えられます。7年以上経過していても、破産理由や経緯、その後の生活状況などを含めた総合評価で判断され、必ず許可されるとは限りません。
国民年金の免除・納付猶予を申請していると帰化できませんか?▾
免除・納付猶予の申請自体は遵法的な対応ですが、生計要件(自己の資産・技能で生計を営めること)を満たしていることにはなりません。帰化申請の受付後に免除申請を行うと不許可事由になり得るため、事前に追納しておくことが推奨されます。
配偶者の収入を合算できますか?▾
できます。生計要件は個人単位ではなく、生計を同じくする配偶者その他の親族を単位として資産・技能を総合的に判断します。配偶者が就労可能な在留資格で働いている場合は、その収入を合算した世帯年収で審査されます。
パート・アルバイトでも帰化できますか?▾
生計要件では安定継続的な稼得能力が重視されるため、パート・アルバイトのみでは基準を満たしにくい場合があります。ただし配偶者の収入と合算した世帯年収で目安額を満たせれば、可能性はあります。資格外活動によるアルバイト収入は一時的なものとして評価される点にも注意が必要です。
転職したばかりでも帰化できますか?▾
転職直後は収入や雇用の安定性がまだ実績として示せないため、フルタイムの職に就いて一定期間の就労実績を積んでから申請するのが望ましいとされています。転職により年収が下がった場合は生計要件でつまずくこともあるため注意が必要です。
借金やローンがあっても帰化できますか?▾
100万円程度の借入れで、返済計画どおりに滞納なく返済できていれば許可された事例は珍しくありません。一方、返済の滞納がある場合や、収入に対して過大な返済を続けている場合は、生計要件を満たしていないと判断されます。
生活保護を受給していても帰化できますか?▾
生計要件は経済的な自立を求めるものであるため、現在生活保護を受給している場合は、原則として要件を満たさないと判断されます。まずは安定した収入を得られる状態にしてから申請を検討する必要があります。
税金や社会保険料の未納があると帰化できますか?▾
税金や社会保険料の未納は、生計要件とは別に「素行要件」の審査でも厳しく見られるポイントです。未納がある場合は納付状況によって不許可となり得るため、申請前に完納しておくことが重要です。
生計要件を満たしているか不安な場合はどうすればよいですか?▾
年収の基準や世帯収入の合算方法、過去の借入れ・年金免除歴の扱いなどは個別の事情によって判断が分かれます。不安がある場合は、申請前に行政書士などの専門家に相談し、状況を整理しておくことをおすすめします。
帰化申請の7つの条件・解説シリーズ
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ご自身の状況を専門家に確認したい方へ
年収の目安、自己破産・借入れの経験、年金の免除歴など、複数の要素が絡む生計要件の判断は、ご自身だけで見極めるのが難しい場合があります。個別の状況に応じたご相談を承っています。


























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